- これまでのあらすじ
- PC10 → PC11 ヴィレンヌ=ラ=ジュエル
- 区間概要
- PC10 フジェール出発
- ルート沿いのマクドでコーラ補給
- 身体の悲鳴と Abandon の決断
- マクドの入口に独り佇み、そして
- 往路に迷い込み、復路に復帰する
- La Couvrieの私設エイドにて女神に出会う
- Le Loroux の私設エイドでランドヌールと集う
- La Tannière で転倒す
- 悪夢の時間、悲惨な状態
- 街に入ると目が覚めるが…
- 幻覚の世界
- Ambrières-les-Vallées
- 滑って転倒す
- Chantrigné
- 2人の先輩ランドヌールと出会う
- Lassay-les-Châteaux
- Le Ribay
- La Mare の私設エイド
- 山を越えてもPC全然見えず
- Loupfougères
- ヴィレンヌ=ラ=ジュエルに入る
- 心、折れる
- 撤退戦
- 総括
これまでのあらすじ
疲労と眠気、それに出発前からの怪我の影響で既に満足に走れないところまで来ていました。でも、それだけに人々の優しさや思いやりを深く感じられた良い旅だったと思います。果たしてどこまで行けるのか、いよいよ最終日の始まりです。
PC10 → PC11 ヴィレンヌ=ラ=ジュエル
PC10 フジェール出発
ルート沿いのマクドでコーラ補給
PC (地図上の赤い丸)のレストランが終わってしまったので、少しでも補給をとルート沿いのマクドナルド(同、水色の丸)に立ち寄りました。閉店間際で飲み物だけとの事でしたが、それでも充分にありがたいです。
マクドを出て少し行ったところで、ここまでも度々一緒になったインド(だと思う)の 3人と合流。暗闇の中、しばらく一緒に走ることとなります。
身体の悲鳴と Abandon の決断
8/24 00:21 しかし、ここに来てついに左肩が悲鳴を上げ出した。前から乗り降りする時に下から槍で突き上げられるような痛みがあったけど、更にひどくなってる。
我慢して走ってはいたけれど、痛みは治まる事もなく、少し立ち止まったところ(地図上の紫の丸)で、「肩が痛くて先に進めない…私はフジェールに戻って DNF するよ」と告げた。
彼は「ここまで来たんだ、頑張ろうぜ!一緒に行こうぜ(雰囲気訳)」と痛み止めも出して誘ってくれたが、ペダルを回す力も出ず、もう難しいと判断。彼の背中を見送り、トボトボとフジェールへの道を戻り出した…。
マクドの入口に独り佇み、そして
8/24 00:41 マクド(地図上の水色の丸)まで戻り、店の前で座り込んだ。これからどうしよう…。PCに戻って仮眠所で眠ろうかな。朝になってから最寄駅まで自走すれば電車でランブイエまで戻れるかな…。
何分くらい呆けていただろう。ふと反対車線を見ると、赤いテールライトの光が流れて行くのが見えた。この時間からではほぼほぼ絶望的なのにまだ走ってく人達がいるんだ…。
ふと我に返った。何を呆けてるんだ?行けるとこまで行けばいいじゃないか!
8/24 01:13 胸の中に何かが燃え上がった。反対車線に渡り、再びペダルを回して上り始めた。まだだ、まだ自分は終わっていない!
往路に迷い込み、復路に復帰する
8/24 01:24 誰もいない中、一人で真っ暗闇を走っているが、いつまで経ってもさっきの上りが出て来ない。
よくよく GPS (etrex) を見ると復路ではなく往路の道を進んでしまっていた(地図上の黒丸)。さっきのラウンドアバウドで出口を間違えてしまったらしい。
引き返して復路に復帰し、インドの彼と別れたポイントまで戻ったのは 01:45。戻るか進むかで迷った結果、一時間半もロスしてしまったのか…。まぁ、過ぎたことは仕方ない。気を取り直して進もう。
La Couvrieの私設エイドにて女神に出会う
北上して、進路を東に変え延々と上っていたら、道脇の少し小高いところから「カフェー!」の声が。お母さんと娘さんとで開いていた私設エイドでした。
こんな遅い時間まで開けててくれるとか、何とありがたい…。コーヒーやらケーキやらたくさんご馳走して頂いて出発時にはお土産にケーキまで持たせてくれて涙が出るほど嬉しい(T-T)
チップを置いていこうとすると「そんないらないから」と言うので、代わりに日本の記念切手をプレゼントして出発。暗闇の中、折れそうな心を救ってくれてありがとう!二人の女神に感謝!
Le Loroux の私設エイドでランドヌールと集う
下りになり、いい感じに走ってたら、ランドヌールの集まっている私設エイドを発見。ここまで来たらもう、この PBP という大きな祭りを楽しむのが一番だよね。
ここでも10分ほど休憩して皆と会話を楽しんだ。
La Tannière で転倒す
PEKOさんのPBP本で読んで知ってはいたけど、車道と歩道との境目の縁石が微妙な高さで見えづらいんですよね(左下の写真、右側の縁石)。暗いと、白線にしか見えないから寄り過ぎると本当怖い。
しかし、今まで引っかかる事は無かったわけで、疲労がピークに達して来たという事だったのでしょう。
悪夢の時間、悲惨な状態
ここからはまた悪夢のような展開です。
03:42 1分ほど小休憩。
03:45 また1分ほどの小休憩。眠気がキツい…。
03:49 押し歩いてる。「Are you Okay?」と声をかけられる。
03:54 また足を止めている。なぜ進めないのか…。
04:02 対向車線にまではみ出してふらつき始めた為、一旦休憩。
04:06 またも休憩。
04:12 ハンドルに突っ伏して休憩。通りがかりの参加者に「サバ?」と声をかけられる。日本語で「何とか…」と答えるのでいっぱい。
04:14 路肩の草むらに突っ込み、停車。
04:22 またも小休憩。漕ぎ出しても1分も進めず止まる始末。
街に入ると目が覚めるが…
04:26 977km地点、Lévaré(レヴァレ)。明るいところに来ると目は覚める。しかし、街を過ぎるとまた眠気でふらつき路肩の草むらに突っ込んだりする。さすがにまずいので5分ほど休憩。
04:42 1分休憩。「行ったなら行ったで…」とか呟いてる。
04:44 また休憩。
04:47 また休憩。ランドヌールに「アレ!」と声をかけられる。
04:55 また押し歩き。
05:04 また休み。「やっとここまでか…この道怖い」との自分の声。
05:06 停車。「なんかここの道路って…なんとかなんだよな…」と道に文句を言ってる。
05:08 停車。「まず、考えるな」「考えるんじゃなくて進むんだ…」と言ってる。
これ…、幻覚見てますよね…。
幻覚の世界
05:22 Gorron (ゴロン) まで来たが、間も無くしてまた停車。録画していた映像には「このコース、なんなんだろ…」「(路肩が)恐い…」という音声が記録されていた。その後も下記のようにひどい状態。
05:41 ハンドルに突っ伏している。
05:47 完全に止まってる。3分くらいずつ休んでる。
05:54 ハンドルに突っ伏している。5~6分か。
06:06 停車してる。少し走っては止まりを繰り返し。
その時の記憶だけど、いくら走っても街から出られないという感覚になっていた。同じところを堂々巡りしているのか、それとも違うのか、いくら進もうとしても次のポイントまでの残距離が減らず、迷宮に迷い込んだかのよう。「この街を抜けるには、何か条件を満たさなければいけないんじゃないか?」というわけのわからない思考に囚われてまったく進めない。
恐らくは、Gorron に着いた辺りで眠気が激しくなり、わずかな停車休憩の間に夢…と言うか幻覚を観ていたものと思われる。残距離が減らないのも停車してたからと考えれば納得が行く。
「とにかくペダルを回して進めばいいんだよ!」と思い直してようやくこの悪夢のループを脱出。
06:17 うっすらと空に色がついてきた。頂いたケーキを食べて補給。
06:21 休み休みで、牛歩のように進んでいる。
06:36 風が強い。もうすぐ、もうすぐ夜明けだ…。
06:44 ふらついてヒヤリ。「怖いな…ここ…」 「距離がどうこうじゃ無いんだ…」「幻覚見てるのでは…」の声が残っている。
Gorron でもそうだったが、この辺りでも幻覚を見ていた。山の中、歩道に立ち、背後には大きな木がある場所におり、いつまで経っても前に進めないという感覚。実際には道の端に突っ立っていただけのようだが、ここでも「進むには何か条件が必要なのじゃないか?」とかわけのわからない事を考えていた。
そんな折、一人のランドヌールがサーッと結構なスピードで走り抜けていくのを見て、「とにかく走れば抜けられるんだ!」と気づき、ようやく脱出できた。
Ambrières-les-Vallées
06:58 Ambrières-les-Vallées (アンブリエール=レ=ヴァレー) に入った。町に入ると、ところどころでパンの焼けるいい香りが。良かった…長い長い幻覚の夜をようやく抜けたんだ…。
滑って転倒す
07:08 久々にランドヌールを発見。がんばって追いかけてみるも、その2分後、長い上りのゆるやかな左カーブで再び転倒。なんだ?と思ったら、道路に落ちてた動物の糞で滑った模様。これも自分は倒れず飛び退けたのでセーフだけど、ついてない…。
Chantrigné
07:27 Chantrigné (シャントリニエ)にて。街が、人が動き出す。
2人の先輩ランドヌールと出会う
そして、別れ際に一緒に記念写真を。どこまで行けるかわからないけど、この先もお互い気をつけて行きましょう。Good Luck!
08:00 お二人と別れて Belle Taille 付近 を一人。朝日に向かって進む。
Lassay-les-Châteaux
08:14 Lassay-les-Châteaux (ラセ=レ=シャトー) に到着。しかし、左肩も痛むし、正直もうキツい。教会の入り口付近で少し休みながら、この辺りで DNF しようか…撤退するとしたら最寄り駅はどこだろうか…と考え始めてた。
しかし、ここでやめようにも近くに駅は無く、次の PC まで進まないことにはどうしようもない。補給食を口にして再びペダルを回した。
8/24 8:52 じりじりと暑くなってきた。遮る物の無い見渡す限り延々と続く道。
…と、ここで20,000mAh のモバイルバッテリーが底を尽きAS300 は録画終了。残るは ONE RS につないでる一本のみ。
Le Ribay
8/24 09:33 Charchigné (シャルシニエ) を過ぎ、幾つか小さい町を越え、ようやく Le Ribay (ル・リベ) まで来た。
ふと横を見ると綺麗に飾られたオブジェが。これらを作って飾ってくれた人々の思い、声援が聞こえるようだ。
…うん、進もう、もうちょっとだけ進もう。
La Mare の私設エイド
8/24 9:47 坂を下って行ったところ。La Mare の辺りだったろうか、お姉さんと弟の2人が私設エイドを開いていてくれた。もう動画も撮れておらず、写真も残って無かったのだけど、ここでしばらく滞在して、コーヒーやらケーキやらをご馳走になった。
英語は通じなかったので、なんとかGoogle翻訳を使って会話。別れ際に「4年後にまた会えたらいいね」と話して出発した。本当に実現できたらいいなぁ。
山を越えてもPC全然見えず
10:13 結構な上りだった…。しかし、ここを下ればすぐPCだろう…と思って走っていたのに、どこまで行っても何も無い。
冷静に地図を見ればまだまだ先だとわかるのだけど、この時はもうすぐそこに目の前に PC があって欲しいという願望だけ。まるで蜃気楼に浮かぶ街を追い求めているような気分だった。
10:23 峠道を下りきって、大通りに出て左折し東へ。しかし、ここからも長い…。
Loupfougères
雨がぽつぽつ降り始め、(etrex のルートを見れば一目瞭然だったはずなのだけど)まだ PC が見えないことに不安が募る。
撤退するにしても、この先どうやって動こうか、最寄り駅まで自走?それならランブイエまで 200km 自走で良くない?とか、独り言を喋って不安を紛らわせていた。
ヴィレンヌ=ラ=ジュエルに入る
11:00 街に入った。そろそろ何か見えるだろうと思いきや、それっぽいものが無い。
11:02 こっちかな?あっちかな?
ヴィレンヌ=ラ=ジュエルの街にはとりあえず着いた。着いたのだけど…コントロール、どこ?
道がわからなくなって教えてもらう。ここから1分と言うのだけど…。
心、折れる
もう etrex のルートも読めなくなっていて、わけがわからない。
さっきまでぽつぽつだった雨が土砂降りになり、どうしようもなく、ここの建物に逃げ込んで聞くことにした。言葉がよくわからずで、何がなんだかわからないけれど、「スタンプは押せない」と言うのは聞こえた。
え…、スタンプ押せないとなると、この先どんなに走っても認定外完走にならないということ?
…張りつめていたものが切れ、心が折れた…。
撤退戦
撤退するランドヌール/ランドヌーズ
どうやってランブイエまで戻ったらいいかわからず途方に暮れていたら、建物の方が別の方を呼んで来てくれて、「彼女に着いていけば駅まで行けるよ」と。
着いて行ったら、私の他にもランドヌール/ランドヌーズが数名いて、皆んなここからの撤退をどうするかと考えているところだった。
大きく、ランブイエに行く者と、そうでない者の2組に別れ、私含むランブイエ組はル・マン駅まで一人30ユーロでタクシー乗り合いで行き、そこから電車で行くことに。
タクシーを待ってる間は、妙な連帯感で片言の英語で話してた。アニタさんは「家族全員は走り切ったのに自分だけここでDNFだ」と話してたっけ。ジャージの背中にアニタと書かれてたので彼女のグループだったんだろうなぁ。
ブルベカードにスタンプ押せると?
そうこうしてる内に雨が上ってきた。ところで、驚いたことにタクシーの手配をしてくれた方が「スタンプ押せるよ!」と皆のブルベカードに押し始めたのだ。
えっ?スタンプまだ押せたの??
一人のランドヌールは、これを受けて「晴れたならまだ行ける!」とランブイエに向かって走り出した。
よほど着いて行きたかったけど、もはや時間的に厳しい…。せめてもっと前に押して貰えてたらと思いつつ、ここで正式に Avandon とした。
公式記録
1,017km地点
PC11 ヴィレンヌ=ラ=ジュエル
到着時刻: 8/24 11:27
close: 8/23 19:06
到着時貯金: マイナス16時間11分
Avandon
後日談: 今明かされる真実
あの時、どれだけ思考能力が落ちていたのか、正直、書き起こすのも恥ずかしい限りなのだけど…、実は心が折れて DNF を決めた時点ではまだ ヴィレンヌ=ラ=ジュエル の PC に【到着して無かった】のです。
往路と復路で同じところを通るからetrex のトラック表示が紛らわしかったのだけど、PC の位置を正確に把握できて無かったのがいけなかった。
てっきりもう PC は撤収されててコントロールも何も無くなったんだと思ったのだけど、そうでは無く、歩いて連れていかれた先がPCで、コントロールもまだ生きていたのですね。
先の建物の方は「(ここでは)スタンプは押せないよ(この先の PC で押せるよ)」と言いたかったんじゃないかな。電話して呼んでくれたのは PC の方だったんでしょう。
ただ、もう疲れきっていて思考能力はゼロ。土砂降りとスタンプ押せないという言葉でもうダメなんだと思ってしまったし、今朝の幻覚を考えたらここで DNF したのは間違いでは無かったのでしょう。
しかし、なんて大きなポカをやってしまったのやら…、穴があったら入りたい…(/_<)
タクシー乗り合いでルマン駅へ
ル・マン駅にて
時に、ランブイエまで戻るのには TGV を使うのだろうと頭から思ってたのだけど、ル・マン駅からは SNCF(フランス国鉄)1本で行けるんですね。30ユーロ弱で行けたのはそのせいか。
例によって切符を買うのに一苦労で、アニタさんとあぁでもないこうでもないと試行錯誤しながら購入してました。15:34 ル・マン発→ 17:12 ランブイエ着の電車で帰ります!
一路、ランブイエへ!
8/24 15:46 無事に乗車し、ランブイエへ。流れる景色を車窓から眺めながら、あぁ、自分の PBP はこれで終わったんだな…と感傷に浸っていました。
戻って来たよ、ランブイエ
8/24 17:19 かくして、ランブイエ駅に到着。僕らを乗せてきた電車をお見送り。ここまで連れてきてくれてありがとうね。
ランブイエ城まで行ってはみたが…
このままホテルに帰る気にはならず、もう何もないかもと思いつつ、ランブイエ城へ走った。
祭りの余韻はまだまだ残っていたけれど、次々と人が帰っていくのを見て、あぁ、もう全て終わったんだな…ゴールできなかった身にはこれ以上は行けないと、中に入れずに駅への道を戻り始めた。
その時、遠くから「また4年後!」と声が響いた。よくお顔は見えなかったけど、あの感じは三船さんだったと思う。それが自分のPBPのハイライト。
後日談: 実は開いてたコントロール
実際には24時頃までコントロールも開いていて、DNFでも最後のスタンプは貰えたそう。閉会式、ビュッフェパーティーもあったのだとか。今にして思えば、中に入って行くべきだったなぁ…。最後までポカ続きだ。
そしてホテルへの帰還
8/24 18:16 再びランブイエ駅に戻り、滞在先のホテルへと帰ります。お疲れ様…。あの状態からのスタートで、よく無事に戻って来れたよ。それだけで充分。
こうして自分の初PBPチャレンジは終わったのでした。
総括
色々なことが、本当に色々なことがあった数日間でした。
決して褒められた走りでは無かったです。夜中にはゾンビ化していましたし、満足な睡眠も取らずに無理した結果が、幻覚は見るわ、満身創痍のタイムオーバーのAvandonでしたから。
それでも、スタート地点に立てるかすらわからない状況から走り出せたこと。折り返しのブレストまで間に合ったこと。時間内完走は無理だと悟ってからは各地のお店や私設エイドの皆さんと交流し、世界各国のランドヌール/ランドヌーズと同じ思いを共有できたこと。そして終了時間まで諦めずに走ったこと。
たった一度の PBP でしたが、何回分もの体験をしてこれたと思います。
そりゃ、完走できなかったのは悔しいし、今もまだ、未練、後悔、いろんな感情をフランスに置き忘れて来た感じです。だからこそ、もう一度 PBP に参加したい。4年後に再び訪れて今度こそゴールゲートを笑って潜り抜けたい。
今はしばし休息を頂きますが、まだまだやらせて頂きますよ!身体を治して万全の状態で4年後にお会いしましょう!!
(帰国編へ) to be continued...